「朝ごはんを買うのにそんなにお金は使わないわ。お姉ちゃん、私わかってるから」 内海唯花の稼ぎは悪くないので、姉を金銭的に支えることができた。しかし、自分の稼ぎ全てを注ぎ込むことはできなかった。彼女は家を買いたいと思っているからだ。 「陽ちゃんも朝ごはん食べたの?」 内海唯花はそう尋ねながら佐々木陽の額を触ってみた。体温は問題なさそうだ。 「ミルクを飲んだの。たまご粥も作ってるのよ。お粥ができたらこの子に食べさせるわ。お腹を空かせたりしないから」 佐々木唯月は子供の世話には細心の注意を払っていた。 「お姉ちゃん、理仁さんが二日後帰ってくるの。今週の土曜日に彼の両親が来るんだけど、お姉ちゃんと義兄さんもその日トキワ・フラワーガーデンに来てよ。家長同士会って欲しいから。義兄さんにも伝えてもらえるかな」 それを聞いて佐々木唯月は喜んで言った。「旦那さんが出張から帰ってくるの?」 「金曜日の夜に帰ってくるって」 「わかったわ、彼に伝えておくわね」 妹が突然結婚し、佐々木唯月は心の中でどういうことなのかはっきりとわかっていた。妹がまだ嘘を付いているが彼女はその嘘に付き合っていた。実際は妹が好きでもない人と結婚したと心配していたのだ。 妹の旦那さんは実際はどんな人なのか、彼女は見たことがなかった。 妹が相手の家長に会うことを彼女はとても重要視していた。 姉の家で少し休んでから、内海唯花は仕事へと向かった。 佐々木唯月は妹が出て行った後、子供にお粥を食べさせて彼を連れて出かけた。まずは散歩、そしてショッピングするのが目的だ。新しい服を買って妹夫婦とあちらの親戚に会う時に着ていくためだ。 普段彼女は家にいて、子供の世話をしているから、適当な格好をしていた。全部そこらへんの店で買ったものだ。 まだ結婚する前は、いろんなことにこだわりを持っていた。着ていた服は決して有名ブランドのものではなかったが、そこらへんで適当に買ったものよりは数倍も高級なものだった。今は結婚して、子供を産み、仕事ができず収入もないため好き勝手に買い物できないのだ。以前の貯金は家の内装で使ってしまった。 今彼女がお金を使う時は、しっかり計画を立てて使っていた。ほとんどは家のために使い、ほんのひと握りのお金を自分自身に使っていた。 妹の旦那の家族に
「アパレルショップだって、おまえ服でも買ったのか?しかもこんな高い服を!一気に二万使うって節約できないのかよ?俺が金稼ぐのは楽だとでも思ってるのか」 「俺は家と車のローンの返済があるんだぞ。両親に生活費もやらないといけないし、陽もまだミルクを飲むだろ。紙おむつだって買わないといけないし、全部金がかかるんだよ。おまえには稼ぎはないし、俺一人で家族を支えないといけないんだぞ。おまえは節約することも知らないのかよ。ちょっとは俺を気遣ってくれよ」 佐々木唯月は立ち止まり、夫からの非難が終わるのを待ち、彼女は釈明した。「唯花の旦那さんが金曜日に帰ってくるから、土曜日にお互いの家長同士会おうって言ってきたの。会って一緒に食事しようって。私は唯花の保護者よ、相手の家族に良い印象を残したいじゃない。以前買った服は今はもう着られないし、新しい服を二セット買うしかなかったのよ」 「あなたにも新しくスーツとネクタイを買ったわ。俊介、今週末はあなたのお母さんのところには帰らないでおきましょう」 佐々木俊介は彼女からの釈明を聞き、小声でブツブツと何かを言っていた。佐々木唯月ははっきり聞こえずに彼に尋ねた。「なんて言ったの?」 「別になにも。相手の家長に会うってんならちゃんとした格好でいかないと確かにだめだ。だけど、二セットも買う必要ないだろ。一セットで十分じゃないか。それに、おまえさっさとダイエットしろよ。痩せれば昔買った服だって着られるだろ。昔買ってた服の質は良いんだから、着ないともったいないじゃないか」 「おまえ自分を見てみろ、一日中食べて飲んで無駄遣いするだけで、今や豚じゃないか。本物の豚なら年末に殺して売れば金になるけどよ。おまえは金にならない豚だよ」 佐々木俊介は妻のぶくぶくと太った体を想像し、言葉の中に嫌悪が満ちていた。 普段の夫婦間の夜の営みについては、彼が特に耐えられない場合を除いて妻に触れることもしたくなかった。 以前のあの頭が切れて仕事をてきぱきとこなし、スタイル抜群で美しい佐々木唯月はいなくなったのだ! 彼は本当にたった三年の結婚生活で妻がこんなに太ったおばさんになるなんて思ってもいなかった。彼の母親と姉が言うことは正しいのだ。佐々木唯月はこんなに醜い姿へと変わり、お金も稼がず一日中家の財産を貪っているだけだ。 「佐々木部長」
彼女は上司から追いかけられ、愛されるのを楽しんでいた。上司から贈られる花やプレゼントは全て受け取っていた。でも彼女から上司へはキス止まりで、その先のことは彼女は一線を越えなかった。 貞操が堅いわけではなかった。彼女は佐々木俊介に気を持たせているだけなのだ。 彼女は彼を求めていた。しかし不倫相手になりたいわけではなく、佐々木俊介の奥さんになりたいのだ。 しかし、佐々木俊介と今現在の妻は長年恋仲で大学の同級生同士だ。あの佐々木唯月とかいう女は以前この会社の財務部長だった。成瀬莉奈が会社で働き始めた頃には佐々木唯月はもう辞職した後で専業主婦になっていた。 成瀬莉奈は佐々木唯月とは会ったことはなく、会社の古株の同僚から聞いて知っていた。佐々木唯月は結婚後一年で息子の佐々木陽を産み、それからはずっと家で子供の世話をしていると。しかも出産の後体型は変わりまるでボールのように太ってしまったらしい。 彼女は佐々木俊介が自分の妻のことを豚みたいだと不満を漏らしているのを何度も聞いたことがあるのだ。 成瀬莉奈は心の中で佐々木唯月は本当に馬鹿な女だ、結婚したのだからスタイルを保つよう努力しなさいよ。ぶくぶく太って誰があんたなんかを好きでいられると思っているのと悪態をついた。 佐々木唯月に彼女が佐々木社長と不倫しているのを責める資格はない。佐々木唯月自身がスタイルを保つ努力をしていないばかりに佐々木部長が飽きてしまったのだ。しかも一日中家にいて無駄遣いばかりしているとは。 佐々木唯月が節約してお金を使ってくれれば、佐々木部長は彼女にたくさんのお金を費やすことができるわけだ。 佐々木唯月のことに触れると、佐々木俊介はすぐさま嫌悪感を顕にし言った。「あの女は本当に豚だ。あいつを見ただけで一気に冷めるね。息子のためじゃなけりゃあ、さっさとあんな女とは離婚してるわ」 それにしても義妹のほうはスタイルをキープしていて佐々木唯月より若くてきれいだ。あの姉妹は田舎出身のくせに、内海唯花の気品は唯月よりも満ち溢れていた。 もちろん、以前の佐々木唯月も高嶺の花といった雰囲気があったが、今ではあのように太ってしまい、気品、美しさ全てが台無しになっていた。 佐々木唯月は自分の夫が秘書と不倫関係にあるなんて思ってもみなかった。彼女は夫に秘書がいるとは知っていたが、電
この時、何台かの高級車がゆっくりと近づいてきた。その中の一台はロールスロイスで結城理仁が乗っている車だ。その高級車を道の横に止めると結城理仁が車の窓を開けて傷のある男に大きな声で話しかけた。「隼翔、ここで何をしている?」 「車をとめて買い物してただけだよ。車に傷つけられちゃったけどな」 「車に傷つけた奴を捕まえなかったのか?」 結城理仁は本能的に言った。「車に傷つけた奴を探し出してやろうか?」 「いや、いいよ。その人の電話番号は教えてもらったから。車の修理が終わったら彼女に電話して弁償してもらうさ。ここ東京で東隼翔から逃げられるわけないだろ」 東隼翔は車に戻るとすぐに車のエンジンをかけ結城理仁に言った。「行こう」 結城理仁はそれを聞いてそれ以上何も言わずに車の窓を閉めた。そしてすぐに数台の高級車が連れ立って走っていった。 一日が過ぎるのは本当に早かった。 あっという間に夕方だ。 高校生が夜の塾帰りに本屋に立ち寄る時間を過ぎてから、内海唯花はキッチンで明凛と一緒に夜ご飯を食べるつもりだったが、姉から電話がかかってきた。 「唯花ちゃん、お姉ちゃんね、一日悩んだんだけど、正直言ってもうどうしようもなくて、あなたにお願いするしかないみたい」 「お姉ちゃん、どうしたの?」 「今日午前中にショッピングに行ったんだけどね。陽を連れてベビーカーを押してる時にうっかりマイバッハにぶつかっちゃって。あんな高級車ちょっと修理しただけでもかなりの金額になるでしょ。見積もってみたけど、私のへそくりじゃお金が払えるかどうか。夫には相談したけど、怒られて何も言ってくれないの。私が招いたことだから、自分で解決しろって言われたわ」 それを聞いて内海唯花は心が締め付けられた。「お姉ちゃん、大丈夫よ。その車の修理代はいくらかかるの?」 「まだ分からないの。車の持ち主に私の電話番号を伝えてあるから、修理が終わってから彼から電話がかかってくるわ。それから弁償する」 「お姉ちゃん、陽ちゃんも二人とも無事ならそれでいいよ。修理代がいくらかかっても私達で払いましょ。私がお金を貸しておくから、心配しないでね」 佐々木唯月はむせび泣きしながら言った。「唯花ちゃん、お姉ちゃん本当にダメな人間よね。厄介事ばかり引き起こして」 「お姉ちゃん、わざとじゃない
結城理仁は何も言わなかった。 午前中、東隼翔の車に傷をつけたのは、まさか本当に彼のまだ会ったことのない義姉だとは。 「結城さん、もう遅いですし、私先に休みますね」 姉を慰めにいったとはいえ、自分も自信がなく内海唯花も心理的にダメージを受けていた。 彼女は結城理仁にそう言うと、自分の部屋へ帰っていった。 結城理仁は唇を開き何か言いたそうにしていたが、彼女はもう部屋に入ってしまった。 ベランダの花は......彼女が明日の朝、起きて気づけば自分できれいにするだろう。 しかし、結城理仁は少し心がスッキリしなかったのだ。まるで自分は良い事をしたから彼女から褒められるのを期待しているかのようだった。 「結城さん」 部屋がまた開き、内海唯花は部屋から出てきて彼に尋ねた。「洗濯機を買ってきましたか?いくらでした?」 「洗濯機二台で十四万だ」 内海唯花は姉の家にある手動洗濯機と比べて、結城理仁が買ってきた洗濯機はそれに見合った値段だと思い、何も言わなかった。 「内海唯花」 結城理仁は彼女がドアを閉めようとした時に彼女を呼び止めた。 「君のお姉さんのことだが、心配しなくていい。君たちの負担が大きいなら俺に言ってくれ、君のお姉さんに少しお金を貸しておくから」 内海唯花は感激して言った。「結城さん、どうもありがとうございます。修理代がいくらかわかってから姉とお金が出せるか相談してみます。もし、足りなかったら姉の代わりにあなたからお金を貸してもらいますね」 結城理仁とは結婚してまだ数日しか経っておらず、お互いのことはまだよくわかっていなかったが、姉が困っている時に彼がこのような態度をとってくれたことに内海唯花はとても感激した。 「ああ。もう遅い、早く休んだほうがいい。あまり悩むことはない、必ずどうにかなるさ」 「結城さんも早めに休んでくださいね。おやすみなさい」 内海唯花は彼におやすみの挨拶をした後、部屋へと戻った。 結城理仁は少しリビングのソファで休んだ後、起き上がって自分の部屋へと戻った。 ドアを閉めると、携帯を取り出して東隼翔に電話をかけた。 「隼翔、もう寝たか?」 東隼翔は笑って言った。「まさか、俺は基本、夜中の二時か三時くらいにしか寝ないよ。どうしたんだ?酒のお誘いか?俺の家に来いよ、コレ
「大した傷じゃないから保険使うのもめんどくさくてさ。理仁、急になんでこんなこと聞いてきたんだ?」 結城理仁は少し黙ってから口を開いた。「その車にぶつかった女性は、俺のばあちゃんの命の恩人のお姉さんなんだ。あの姉妹はお互い助け合って生きてきたらしい。その女性は今は専業主婦で収入がないんだと。おまえの車に傷をつけてしまってから、金が足りないんじゃないかと困っているんだ」 東隼翔「......あ、こんな偶然が?結城おばあさんの恩人の姉さんって、おまえどうやって知ったんだ?」 結城理仁は嘘をついた。「うちのばあちゃんは恩人の彼女のことがすごく気に入っているんだ。よく彼女に会いに行ってて、その恩人の様子がおかしかったから気になってどうしたのか聞いたらしい。それで恩人のお姉さんだとわかったんだ」 「まじか、その恩人とやらのお姉さんの名前は?なんていうんだ?」 「佐々木唯月、旧姓は内海だ。恩人の名前は内海唯花」 「唯花と唯月か、確かに姉妹って感じだよな。おまえんとこのおばあさんの恩人の姉さんなら、修理代は必要ないさ。たったの数十万なんかどうだっていいんだ。ただ俺は被害者だからさ、寛大な態度で相手に一円も出させないようじゃ、彼女に今回の件が教訓にならないだろうと思ってな。もしかしたら、次また他の誰かの車にぶつけてしまうかもしれないだろ」 東隼翔は有名な東家の四男で今年三十五歳になった。この家の継承者ではないが、自分の力で東グループを創立し、傘下の会社も少なくなかった。間違いなしの億万長者だ。 彼は豪快でさっぱりした性格の持ち主で義理堅い人物だった。若く血気盛んな頃は各地を放浪していた。顔にあるナイフでついたような傷はその時についたものだった。美容外科に行くのも面倒くさく、顔に刀傷があればもっと威厳があるだろうと言っていた。 「彼女に教訓を与えたいって言うなら、修理代によっては彼女に弁償してもらえよ。もしかなりの金額になるなら俺のばあちゃんの恩人に免じて、少し安くしてやってくれ」 二十万程度、結城理仁や東隼翔のような金持ちの男にとっては、お金と呼べるものではなかったのだ。 佐々木唯月が仕事がなく収入がないからといっても、二十万くらいであれば人から借りて返済できない額ではなかった。 「大した金額じゃない、ただ二十万くらいさ。じゃあ、彼女に
この夜、内海唯花は寝ていても落ち着かず、夢ばかり見ていた。次の日目が覚めると、元気がなかった。 以前と同じように、彼女は昨晩洗濯機で洗っておいた服を干しにベランダへ向かった。 その時初めてベランダにはすでに彼女が服を干すための洗濯竿が準備してあって、広々したベランダはいっぱいの花で埋め尽くされていることに気がついた。多くの花は咲いているか蕾をつけているものだった。花の大きさの大小にかかわらず、花びらがたくさんついた八重になっている豪華な花だった。 内海唯花の関心は直ちにこの花たちに注がれた。 彼女は服を干した後、昨日の朝買ってきた花用の棚を組み立てて、その上に並べた。 しばらくの間花たちをいじくり回し、ふと誰かの視線を感じ、パッと頭を上げると結城理仁の漆黒の瞳と目が合った。彼の目つきは鋭く冷たかった。 結婚して数日過ぎていたおかげで、内海唯花は彼のその冷たい様子にはもう慣れてしまった。 「結城さん、おはようございます」 内海唯花は挨拶をすると、すぐに彼を賞賛して言った。「結城さん、お花すごくきれいです。いい仕事するじゃないですか!」 彼にお願いした事を、彼はパーフェクトにこなしてくれたのだ。 結城理仁は低い声で言った。「今後は君が解決できない事があれば、俺に言ってくれ」 彼女がお願いすることは、彼にとっては朝飯前なのだ。 「わかりました」 内海唯花は嬉しそうにニコニコしながら、再び花をいじるのに専念しはじめた。 「あの、どの花屋で買ったんですか?花たちすごく丁寧に育てられていますよ」 結城理仁は「いろんな花屋に行ったからな。名前はよく覚えていない」と嘘をついた。 内海唯花はそうですかと言っただけで、それ以上は聞かなかった。彼がしてくれたことが満足でそれだけで十分だったのだ。 「今日は朝ごはんに何を買ったんだ?」 彼にそう聞かれて、内海唯花は朝ごはんのことを思い出し、慌てて携帯を取り出して時間を見ると、もう七時を過ぎていた。彼女は立ち上がり、申し訳なさそうに彼に言った。「結城さん、今朝は朝ごはんのことをすっかり忘れていました。今買いにいったら間に合いますよね。顔を洗って買いに行ってきます。何が食べたいですか?」 結城理仁は淡々と答えた。「好き嫌いはないから、君が選んでくれ」 彼に好き嫌いが
「結城さん、どうしましたか?」 内海唯花はベランダから家の中にいる彼を見て言った。 結城理仁はあのドーナツを食べながらベランダに出てきて言った。「君のお姉さんの事なんだが、あまり心配しなくていい。ぶつけたあの車の持ち主はうちの会社のある重要な取引先の車だ。昨晩思い出して東社長に連絡をしたんだ。彼があの車の修理代は二十万くらいだろうと言っていた」 彼女は今土いじりをする元気はあるようだが、結城理仁は彼女の精神状態はいつもより悪いことに気づいていた。明らかに昨夜よく眠れなかったのだろう。その原因はもちろん彼女の姉の件だ。 内海唯花は顔を上げて彼を見つめた。彼が揚げドーナツを普通に食べているのを見て、心の中で彼は特に好き嫌いはなく手がかからない人だと考えていた。しかしその口は彼にこう尋ねた。「どうやって会社の顧客の車だと確信したんですか?」 彼女の姉もその車の持ち主の名前を知らなかった。ただ相手が背が高くて勇ましい人で、顔に刀傷があり、人を怖がらせるような容貌の人であるとしか分からないのに。その怖さに陽も怯えてしまった。 「昨日の午前、東社長がうちの会社に来て俺が担当したんだが、その時彼の車に傷があるのが見えてどうしたのか尋ねたんだ。東社長が子供を連れた女性がベビーカーを押しているときに車にぶつかったんだと説明してくれたんだ」 「昨晩君が俺にこの事を話した時に、まさかとは思ったんだ。それで東社長に電話をして確認してみた。君のお姉さんは佐々木唯月っていうんじゃないか?東社長は君のお姉さんの電話番号を教えてもらって、修理が終わったらまた電話をかけて修理代について話すと言っていたよ」 内海唯花は花をきれいに並べ終わると、立ち上がって背を伸ばして言った。「私の姉は確かに佐々木唯月と言います。ということは本当に偶然が重なったんですね。結城さん、東社長は本当に修理代は二十万くらいだと言っていたのですか?」 二十万なら姉にも出せる金額だった。 「俺が聞いた限り、彼はそう言っていたよ」 内海唯花はほっとした。「ならよかったです。結城さん、本当にありがとうございます」 姉妹二人は修理代がかなりかかるのではないかと心配していた。今修理代は二十万くらいだと知って、内海唯花は太陽がもっと明るく眩しく見えた。 それと同時に、彼女がスピード結婚をし
内海唯花がご飯を食べる速度はとても速く、以前はいつも唯花が先に食べ終わって、すぐに唯月に代わって陽にご飯を食べさせ、彼女が食べられるようにしてくれていた。義母のほうの家族はそれぞれ自分が食べることばかりで、お腹いっぱいになったら、全く彼女のことを気にしたりしなかった。まるで彼女はお腹が空かないと思っているような態度だ。「母さん、エビ食べて」佐々木俊介は母親にエビを数匹皿に入れると、次は姉を呼んだ。「姉さん、たくさん食べて、姉さんが好きなものだろ」佐々木英子はカニを食べながら言った。「今日のカニは身がないのよ。小さすぎて食べるところがないわ。ただカニの味を味わうだけね」唯月に対する嫌味は明らかだった。佐々木俊介は少し黙ってから言った。「次はホテルに食事に連れて行くよ」「ホテルのご飯は高すぎるでしょ。あなただってお金を稼ぐのは楽じゃないんだし。次はお金を私に送金してちょうだい。お姉ちゃんが買って来て唯月に作らせるから」佐々木英子は弟のためを思って言っている様子を見せた。「それでもいいよ」佐々木俊介は唯月に少しだけ労働費を渡せばいいと思った。今後は海鮮を買うなら、姉に送金して買ってきてもらおう。もちろん、姉が買いに行くなら、彼が送金する金額はもっと多い。姉は海鮮料理が好きだ。毎度家に来るたび、毎食は海鮮料理が食べたいと言う。魚介類は高いから、姉が買いに行くというなら、六千円では足りるわけがない。佐々木家の母と子供たち三人は美味しそうにご飯を食べていた。エビとカニが小さいとはいえ、唯月の料理の腕はかなりのものだ。実際、姉妹二人は料理上手で、作る料理はどれも逸品だった。すぐに母子三人は食べ終わってしまった。海鮮料理二皿もきれいに平らげてしまい、エビ半分ですら唯月には残していなかった。佐々木母は箸を置いた後、満足そうにティッシュで口元を拭き、突然声を出した。「私たちおかず全部食べちゃって、唯月は何を食べるのよ?」すぐに唯月のほうを向いて言った。「唯月、私たちったらうっかりおかずを全部食べちゃったのよ。あなた後で目玉焼きでも作って食べてちょうだい」佐々木唯月は顔も上げずに慣れたように「わかりました」と答えた。佐々木陽も腹八分目でお腹がいっぱいになった。これ以上食べさせても、彼は口を開けてはくれない。佐々木
佐々木俊介は彼女を睨んで、詰問を始めた。「俺はお前に一万送金しなかったか?」それを聞いて、佐々木英子はすぐに立ち上がり、急ぎ足でやって来て弟の話に続けて言った。「唯月、あんた俊介のお金を騙し取ったのね。私には俊介が六千円しかくれなかったから、大きなエビとカニが買えなかったって言ったじゃないの」佐々木唯月は顔も上げずに、引き続き息子にご飯を食べさせていた。そして感情を込めずに佐々木俊介に注意した。「あなたに言ったでしょ、来たのはあなたの母親と姉でそもそもあんたがお金を出して食材を買うべきだって。私が彼女たちにご飯を作ってあげるなら、給料として四千円もらうとも言ったはずよ。あんた達に貸しなんか作ってないのに、タダであんた達にご飯作って食べさせなきゃならないなんて。私にとっては全くメリットはないのに、あんた達に責められて罵られるなんてありえないわ」以前なら、彼女はこのように苦労しても何も文句は言わなかっただろう?佐々木俊介はまた言葉に詰まった。佐々木英子は弟の顔色を見て、佐々木唯月が言った話は本当のことだとわかった。そして彼女は腹を立ててソファに戻り腰掛けた。そして腹立たしい様子で佐々木唯月を責め始めた。「唯月、あんたと俊介は夫婦よ。夫婦なのにそんなに細かく分けて何がしたいのよ?それに私とお母さんはあんたの義母家族よ。あんたは私たち佐々木家に嫁に来た家族なんだよ。あんたに料理を作らせたからって、俊介に給料まで要求するのか?こんなことするってんなら、俊介に外食に連れてってもらったほうがマシじゃないか。もっと良いものが食べられるしさ」佐々木唯月は顔を上げて夫と義姉をちらりと見ると、また息子にご飯を食べさせるのに専念した。「割り勘でしょ。それぞれでやればいいのよ。そうすればお互いに貸し借りなしなんだから」佐々木家の面々「……」彼らが佐々木俊介に割り勘制にするように言ったのはお金の話であって、家事は含まれていなかったのだ。しかし、佐々木唯月は徹底的に割り勘を行うので、彼らも何も言えなくなった。なんといっても割り勘の話を持ち出してきたのは佐々木俊介のほうなのだから。「もちろん、あなた達が私に給料を渡したくないっていうのなら、ここに来た時には俊介に頼んでホテルで食事すればいいわ。私もそのほうが気楽で自由だし」彼女も今はこの気分を
しかも一箱分のおもちゃではなかった。するとすぐに、リビングの床の上は彼のおもちゃでいっぱいになってしまった。佐々木英子は散らかった部屋が嫌いで、叫んだ。「唯月、今すぐ出てきてリビングを片付けなさい。陽君がおもちゃを散らかして、部屋中がおもちゃだらけよ」佐々木唯月はキッチンの入り口まで来て、リビングの状況を確認して言った。「陽におもちゃで遊ばせておいてください。後で片づけるから」そしてまたキッチンに戻って料理を作り始めた。陽はまさによく動き回る年頃で、おもちゃで遊んだら、また他の物に興味を持って遊び始める。どうせリビングはめちゃくちゃになってしまうのだ。佐々木英子は眉間にしわを寄せて、キッチンの入り口までやって来ると、ドアに寄りかかって唯月に尋ねた「唯月、あんたさっき妹に何を持たせたの?あんなに大きな袋、うちの俊介が買ったものを持ち出すんじゃないよ。俊介は外で働いてあんなに疲れているの。それも全部この家庭のためなのよ。あんたの妹は今結婚して自分の家庭を持っているでしょ。バカな真似はしないのよ、自分の家庭を顧みずに妹ばかりによくしないで」佐々木唯月は後ろを振り返り彼女を睨みつけて冷たい表情で言った。「うちの唯花は私の助けなんか必要ないわ。どっかの誰かさんみたいに、自分たち夫婦のお金は惜しんで、弟の金を使うようなことはしません。美味しい物が食べたい時に自分のお金は使わずにわざわざ弟の家に行って食べるような真似もしませんよ」「あんたね!」逆に憎まれ口を叩かれて、佐々木英子は卒倒するほど激怒した。暫くの間佐々木唯月を物凄い剣幕で睨みつけて、佐々木英子は唯月に背を向けてキッチンから出て行った。弟が帰って来たら、弟に部屋をしっかり調べさせて何かなくなっていないか確認させよう。もし、何かがなくなっていたら、唯月が妹にあげたということだ。母親と姉が来たのを知って、佐々木俊介は仕事が終わると直接帰宅した。彼が家に入ると、散らかったリビングが目に飛び込んできた。そしてすぐに口を大きく開けて、喉が裂けるほど大きな声で叫んだ。「唯月、リビングがどうなってるか見てみろよ。片付けも知らないのか。陽のおもちゃが部屋中に転がってんぞ。お前、毎日一日中家の中にいて何やってんだ?何もやってねえじゃねえか」佐々木唯月はお椀を持って出て来た。先
それを聞いて、佐々木英子は唯月に長い説教をしようとしたが、母親がこっそりと彼女の服を引っ張ってそれを止めたので、彼女は仕方なくその怒りの火を消した。内海唯花は姉を手伝ってベビーカーを押して家の中に入ってきた。さっき佐々木英子が姉にも六千円出して海鮮を買うべきだという話を聞いて、内海唯花は怒りで思わず笑ってしまった。今までこんな頭がおかしな人間を見たことはない。「お母さん」佐々木英子は姉妹が家に入ってから、小さい声で母親に言った。「なんで私に文句言わせてくれないのよ!弟の金で食べて、弟の家に住んで、弟の金を浪費してんのよ。うちらがご飯を食べに来るのに俊介の家族だからってはっきり線を引きやがったのよ」「あんたの弟は今唯月と割り勘にしてるでしょ。私たちは俊介の家族よ。ここにご飯を食べに来て、唯月があんなふうに分けるのも、その割り勘制の理にかなってるわ。あんたが彼女に怒って文句なんか言ったら、誰があんたの子供たちの送り迎えやらご飯を作ってくれるってんだい?」佐々木英子は今日ここへ来た重要な目的を思い出して、怒りを鎮めた。しかし、それでもぶつぶつと言っていた。弟には妻がいるのにいないのと同じだと思っていた。佐々木唯月は義母と義姉のことを全く気にかけていないと思ったのだった。「唯月、高校生たちはもうすぐ下校時間だから、急いで店に戻って店番したほうがいいんじゃないの?お姉ちゃんの手伝いはしなくていいわよ」佐々木唯月は妹に早く戻るように催促した。「お姉ちゃん、私ちょっと心配だわ」「心配しないで。お姉ちゃんは二度とあいつらに我慢したりしないから。店に戻って仕事して。もし何かあったら、あなたに電話するから」内海唯花はやはりここから離れたくなかった。「あなたよく用事があって、いつも明凛ちゃんに店番させてたら、あなた達がいくら仲良しの親友だからって、いつもいつもはだめでしょ。早く店に戻って、仕事してちょうだい」「明凛は理解してくれるよ。彼女こそ私にお姉ちゃんの手伝いさせるように言ったんだから。店のことは心配しないでって」「あの子が気にしないからって、いつもこんなことしちゃだめよ。本当によくないわ。ほら、早く帰って。お姉ちゃん一人でどうにかできるから。大丈夫よ。あいつらが私をいじめようってんなら、私は遠慮せずに包丁を持って街中を
両親が佐々木英子の子供の世話をし、送り迎えしてくれている。唯月は誰も手伝ってくれる人がおらず自分一人で子供の世話をしているから、ずっと家で専業主婦をするしかなかったのだ。それで稼ぎはなく彼ら一家にこっぴどくいじめられてきた。母と娘はまたかなり待って、佐々木唯月はようやく息子を連れて帰ってきた。母子の後ろには内海唯花も一緒について来ていた。内海唯花の手にはスーパーで買ってきた魚介類の袋が下がっていた。佐々木家の母と娘は唯月が帰って来たのを見ると、すぐに怒鳴ろうとしたが、後ろに内海唯花がついて来ているのを見て、それを呑み込んでしまった。先日の家庭内暴力事件の後、佐々木家の母と娘は内海唯花に話しに行ったことがある。しかし、結果は唯花に言いくるめられて慌てて逃げるように帰ってきた。内海唯花とはあまり関わりたくなかった。「陽ちゃん」佐々木母はすぐにニコニコ笑って彼らのもとに行くと、ベビーカーの中から佐々木陽を抱き上げた。「陽ちゃん、おばあちゃんとっても会いたかったわ」佐々木母は孫を抱きながら両頬にキスの嵐を浴びせた。「おばあたん」陽は何度もキスをされた後、小さな手で祖母にキスされたところを拭きながら、祖母を呼んだ。佐々木英子は陽の顔を軽くつねながら笑って言った。「暫くの間会ってなかったら、陽君のお顔はぷくぷくしてきたわね。触った感じとても気持ちいいわ。うちの子みたいじゃないわね。あの子は痩せてるからなぁ」佐々木陽は手をあげて伯母が彼をつねる手を叩き払った。伯母の彼をつねるその手が痛かったからだ。佐々木唯月が何か言う前に佐々木母は娘に言った。「子供の目の前で太ってるなんて言ったらだめでしょう。陽ちゃんは太ってないわ。これくらいがちょうどいいの」佐々木母は外孫のほうが太っていると思っていた。「陽ちゃんの叔母さんも来たのね」佐々木母は今やっと内海唯花に気づいたふりをして、礼儀正しく唯花に挨拶をした。内海唯花は淡々とうんと一言返事をした。「お姉さんと陽ちゃんを送って来たんです」彼女はあの海鮮の入った袋を佐々木英子に手渡した。「これ、あなたが食べたいっていう魚介類です」佐々木英子は毎日なかなか良い生活を送っていた。両親が世話をしてくれているし、美味しい物が食べたいなら、いつでも食べられるのに、わざわざ弟の家に来
二回も早く帰るように佐々木唯月に催促しても、失敗した英子は腹を立てて電話を切った後、母親に言った。「お母さん、唯月は妹の店にいて、陽君が寝てるから起きてから帰るって。それでうちらに鍵を取りに来いってさ」佐々木家の母親は眉間にしわを寄せ、不機嫌そうに言った。「陽ちゃんが寝てるなら、唯月が抱っこして連れて帰って来ればいいじゃないの。唯花には車もあるし、車で二人を連れて来てくれればそんなに時間はかからないじゃないか」息子の嫁はわざと自分と娘を家の前で待たせるつもりだと思った。「わざとでしょ。わざと私たち二人をここで待たせる気なんだよ」佐々木英子も弟の嫁はそのつもりなのだと思っていた。「前、お母さんがわざと鍵を忘れて行ったことがあったじゃない。彼女が不在だったら、電話すれば唯月はすぐに帰ってきてドアを開けていたわ。今回みたいに私らを長時間待たせることなんかなかった。お母さん、俊介たち夫婦が大喧嘩してから唯月の態度がガラッと変わったと思うわ」佐々木母もそれに同意した。「確かにね」佐々木英子は怒って言った。「唯月はこの間うちの俊介をあんな姿にさせて、ずっと俊介を迎えに来るのを拒んでいたわ。だから、私たちで俊介を説得して帰らせることになった。私たちは全部陽君のためだったのよ。もし陽君のためじゃなければ、俊介に言ってあんな女追い出してやったのに。家は俊介のものよ。本気でうちらを怒らせたら、俊介にあいつを追い出させましょ!」昔の佐々木唯月は夫の顔を立てるために、義姉である佐々木英子には寛容だった。いつも英子から責められ、けちをつけられても許していたのだ。今佐々木英子は更に唯月のことが気に食わなくなり、弟にすぐにでも唯月を追い出してもらいたかった。離婚しても、彼女の弟みたいに条件が良ければ成瀬莉奈のように若くてきれいなお嬢さんを嫁として迎えることができるのだ。佐々木唯月が俊介と離婚したら、一体誰があんな女と結婚しようと思う?再婚したかったら、70や80過ぎのじいさんしか見つからないだろう。「この話は私の前でだけ話しなさい。俊介には言わないのよ」佐々木母は心の中では唯月に不満を持っていたが、孫のためにもやはり息子と嫁の家庭を壊したくなかったので、娘に忠告しておいた。娘が息子の前でまた嫁の悪口を言うのを止めたかったのだ。「お母さん、わ
「妹はあんたに何か貸しでも作ってたかしら?あんたの母親と姉が食べたいんでしょ、なんで妹がお金を出す必要があるのよ?俊介、結婚してから三年余り、私は仕事をしてないからお金を稼いでない。だけど、家庭のためにたくさん犠牲にしてきたのよ。私が裏であなたを支えてなかったら、あんたは安心して仕事ができた?今のあんたがいるのは一体誰のおかげだと思ってるの?お金をくれないってんなら、私だって買いに行かないわ。それから、送金するなら私の労働費もプラスしてもらわないとね。あんたが割り勘にしたいって言ってきたのよ。あれはあんたの母親と姉で私があの人たちに食事を作ってやる義務なんかないわ。私に料理をしてあの人たちに食べさせろっていうなら、お給料をもらわないとね。三年以上夫婦としてやってきたんだから、それを考慮して四千円で手をうってあげるわ」佐々木俊介は電話の中で怒鳴りつけた。「金の浪費と食べることしかできないやつがよく言うぜ。今の自分のデブさを見てみろよ。てめえが家庭のために何を犠牲にしたってんだ?俺には全く見えないんだがな。俺が今仕事で成功しているのは俺自身が努力した結果だ。てめえのおかげなんてこれっぽっちも思っていないからな。なにが給料だよ?俺の母さんはお前の義母だろ?どこの嫁が義母に飯を作るのに給料を要求するってんだ?そんなこと他所で言ってみ?世間様から批判されるぞ」「お金をくれないなら、私は何もしません」佐々木唯月はそう言うと電話を切ってしまった。佐々木俊介は妻に電話を切られてしまって、怒りで携帯を床に叩きつけたい衝動に駆られた。しかし、その携帯を買ってからまだそんなに経っていないのを思い出してその衝動を抑えた。その携帯は成瀬莉奈とお揃いで買ったものだ。一括で同じ携帯を二台買い、一つは自分に、もう片方は成瀬莉奈にあげたのだ。だからその携帯を壊すのは惜しい。「このクソデブ女、陽が幼稚園に上がったら見てろよ!俺と離婚したら、お前みたいなブスを誰がもらってくれるんだ?くたばっちまえ!」佐々木俊介はオフィスで佐々木唯月をしばらく罵り続け、結局は唯月に一万円送金し彼女に海鮮を買いに行かせることにした。しかし、唯月が買い物をした後、レシートを残しておくように言った。夜彼が家に帰ってからそれを確認するためだ。「あいつ、お姉ちゃんに帰ってご飯を作れって?
佐々木唯月は強く下唇を噛みしめ、泣かないように堪えていた。彼女はもう佐々木俊介に泣かされた。だから、もう二度と彼のために涙を流すことはしたくなかった。彼女がどれだけ泣いても、彼がもう気にしないなら、流した涙で自分の目を腫らすような辛い思いをする必要があるのか?「大丈夫よ」佐々木唯月は証拠をまた封筒の中に戻し、気丈に平気なふりをして言った。「お姉ちゃんの気持ちはだいぶ落ち着いているわ。今彼の裏切りを知ったわけではないのだし」「唯花」佐々木唯月は封筒を妹に渡した。「お姉ちゃんの代わりにこの証拠をしっかり保管しておいてちょうだい。私が家に持って帰って、彼に見つかったら財産を私から奪われないように他所に移してしまうかもしれない。そうなると私が不利になるわ」「わかった」内海唯花は封筒を受け取った。佐々木唯月は冷静に言った。「あなたに言われた通り、まずは何もしらないふりをしておく。仕事が安定したら、離婚を切り出すわ。私がもらう権利のあるものは絶対に奪い取ってみせる。あんな奴の好きにはさせないんだから!」結婚した後、彼女は仕事を辞めてしまったが、彼女だって家庭のために多くのことをやってきたのだ。結婚してから佐々木俊介の稼ぎは夫婦二人の共通の財産である。彼の貯金の半分を奪い取って、発狂させてやる!それから、現在彼らが住んでいるあの家のリフォーム代は彼女が全部出したのだ。佐々木俊介にはそのお金も返してもらわなければならない。「お姉ちゃん、応援してるからね!」内海唯花は姉の手を握りしめた。「お姉ちゃん、私がいるんだから、思いっきりやってちょうだい!」「唯花」佐々木唯月は妹を抱きしめた。彼女が15歳の時に両親が亡くなり、それから姉妹二人で支え合って、一緒に手を取り合い今日までやってきた。だから、彼女は佐々木俊介というあのゲス男には負けたりしない。「プルプルプル……」佐々木唯月の携帯が突然鳴り響いた。妹から離れて、携帯の着信表示を見てみると佐々木俊介からだった。少し躊躇って、彼女は電話に出た。「唯月、今どこにいるんだ?」佐々木俊介は開口一番、彼女に詰問してきた。「一日中家にいないでさ、母さんと姉さんが来たらしいんだ、家に入れないって言ってるぞ」佐々木唯月は冷ややかな声で言った。「お義母さ
結城理仁は椅子に少し座ってから、会社に戻ろうとした。内海唯花が食器を洗い終わりキッチンから出てくると、彼が立ち上がり出ていこうとしていたので、彼に続いて外に出て行った。彼は一言もしゃべらず、車から大きな封筒を取り、振り返って内海唯花に手渡し声を低くして言った。「この中に入ってる」内海唯花は佐々木俊介の不倫の証拠を受け取り、もう一度お礼を言おうとした。その時彼のあの黒く深い瞳と目が合い、内海唯花は周りを見渡した。しかし、通りには人がいたので、やろうとしていたことを諦めた。「車の運転気をつけてね。会社にちゃんと着いたら私に連絡して教えてね」結城理仁は唇をきつく結び、低い声で返事をした。彼は車に乗ると、再び彼女をじいっと深く見つめて、それからエンジンをかけ運転して店を離れた。内海唯花はその場に立ったまま、遠ざかる彼の車を見つめ、彼らの間に少し変化があるのを感じた。彼が自分を見つめる瞳に愛が芽生えているような気がした。もしかしたら、彼女は気持ちをセーブせず、もう一度思い切って一歩踏み出し、愛を求めてもいいのかもしれない。半年の契約はまだ終わっていないのだから、まだまだチャンスはある。そう考えながら、内海唯花は携帯を取り出し結城理仁にLINEを送って彼に伝えた。「さっきキスしたかったけど、人がいたから遠慮しちゃったわ」メッセージを送った後、彼女は結城理仁の返事は待たなかった。少ししてから、内海唯花は大きな封筒を持って店に入っていった。佐々木陽は母親の懐でぐっすり寝ていた。牧野明凛は二匹の猫を抱っこして遊んでいて、内海唯花が入って来るのを見て尋ねた。「旦那さんは仕事に行った?」「うん、仕事の時間になるからね。彼は仕事がすごく忙しいから夜はよく深夜にやっと帰ってくるの」内海唯花も二匹の子猫を触った。結城理仁が彼女にラグドールを二匹プレゼントしてくれた。彼女に対して実際とてもよくしてくれている。犬もとても可愛い。ペットを飼うことになったので、彼女は後でネットショップで餌を買うことにした。「お姉ちゃん、あそこにソファベッドがあるから陽ちゃんをそこで寝かせたらいいよ。ずっと抱っこしてると疲れるでしょ」内海唯花は姉のもとへ行き、甥を抱き上げて大きな封筒を姉に渡して言った。「これ、理仁さんが友達に頼んで集め